
傍田
「内戦状態に陥ったとされるシリア情勢についてです。
国連の停戦監視団が活動停止に追い込まれて以降、反政府勢力と政府軍の攻防はさらに激しさを増しており、21日にはシリア全土で少なくとも128人が死亡しました。」
鎌倉
「一方、政府軍の戦闘機が隣国のヨルダンに緊急着陸し、パイロットが政治亡命を求めるなど、政府軍の中でもほころびが出始めています。」
緊迫続く“内戦状態”シリア
親子2代にわたり、40年以上シリアを支配してきたアサド政権。
反政府勢力は外国の支援を受けたテロリストだとして徹底抗戦を呼びかけました。

国を救うにはテロと戦うしかない。」
アサド政権は今年4月、いったん軍事行動を停止するとしたものの、その後も、反政府勢力に対する砲撃などを全土で続けています。
アサド大統領のこうした強硬姿勢に、国際社会からは非難の声が高まっています。

アサド政権への制裁を強化しなければならない。」
先週、シリアに派遣されている国連の停戦監視団は、「戦闘の激化で監視員が重大な危険にさらされている」として、監視活動の停止を発表しました。
シリアの人権団体などによりますと、停戦監視団が活動停止に追い込まれて以降、戦闘は激しさを増しており、21日だけで少なくとも128人が死亡したと見られるということです。

「政府軍と反政府勢力との戦闘は首都ダマスカスの中心部以外のほぼすべての地域に拡大していますが、今回、こちら、国の北西部にカメラが入りました。
この地域には国民のおよそ7割を占めるイスラム教スンニ派の住民とシーア派に近いとも言われ、アサド大統領が属する少数派のアラウィ派の住民が混在して暮らしてきました。
しかし、戦いが激しさを増すにつれ、住民同士の間でも対立が深まっています。
現地で今、何が起きているのか。
フリー・ジャーナリスト、後藤健二さんのリポートです。」
“内戦突入”シリアは今
今月(6月)初め、トルコからシリアに入国した私は、北西部の街サムラに向かいました。
ここは、これまで激しい戦闘が伝えられてはいない町です。
しかし、どこにも人影がなく、ゴーストタウンとなっていました。

「たくさんの建物がありますけれども、通りにはまったく人がいません。
この街から逃げ出してしまっています。」
突然、機関銃の音が聞こえました。
後藤記者
「ヘリコプターがすごい。
今私の真上を飛んでいます。」
政府軍のヘリコプターです。
反政府勢力をあぶりだそうとヘリからの攻撃が行われていました。
街に残るスンニ派の住民と出会いました。
電気や水道を止められ、わき水をくみ、廃材やまきで火をおこし生活していました。

「ヘリコプターがこない時に水をくむ。
畑仕事をしているだけなのに攻撃される。」
子供たちが国外に逃れ、家族がばらばらになってしまったと嘆く夫婦もいました。

皆追い出されて、息子たちは国外へ逃げました。」
スンニ派とアラウィ派 深刻化する宗派対立
私が訪ねた北西部は、多数を占めるスンニ派とアサド大統領が属し、軍や治安機関の中枢を占めるアラウィ派の人々がともに暮らしてきた地域です。
政府への不信感が高まる中で、反政府勢力に参加するスンニ派の住民が増えています。
自由シリア軍の拠点がある小さな村を訪ねました。

彼らの憤りは、政府へだけではなく、アサド大統領と同じアラウィ派の住民にも向けられていました。
スンニ派とアラウィ派の住民が、互いを憎しみ合うようになっているといいます。

もともとは何の摩擦もなかったのに、『スンニ派を殺すのは正しい』と政府がアラウィ派に吹き込んでいるんだ。
いとこもアラウィ派に殺されたんだ。」
教師をしてきたスンニ派の男性です。
生徒が反政府デモに参加するのを止めなかったとして、仕事を解雇されました。

政府は、アラウィ派の住民に食料や薬だけではなく武器まで援助しているといいます。
宗派の違いによる住民同士の対立が深刻化しています。
スンニ派元教師
「私たちには食料も薬もない。
私たちを守ってくれるのは、自由シリア軍しかいない。」
互いに憎しみ合い、不安に怯える日々。
その影響は子どもたちにも及んでいます。
「アサド大統領は好き?」
「好きじゃない。
子どもや女の人を大勢殺しているから。」

「政府軍を離反した兵士が反政府勢力の側について戦闘に加わっていることはこれまでもニュースでお伝えしてきましたが、今や、一般の人たちまでお互いの宗派が違うことで対立が深刻になっていることがわかりました。
この状況で、国連の停戦監視団もストップしてしまっています。」
傍田
「シリア情勢をめぐっては来週、アメリカのクリントン国務長官がロシアを訪れ、アサド政権の早期退陣に向けた協力を重ねて求めると見られますが、ロシア側がこれに応じる見通しはなく、国際社会としても有効な手立てが見いだせない状況が続いています。」