滑り込みだった。
ついに話がついた。イラク取材の予算を確保した。
すぐにここに書きたかったけれど、頭も体も気持ちの余裕もなく、ここ数日まともに寝る時間もなかった。でも、そんなことはもうどうでもいい。映像を見てもらえは、話を聞いてもらえば、わかってもらえるという確信はあったが、本当に良かった。彼らとの信頼関係を大切にして、いい仕事をしたいと思う。
ファディたちに知らせて、準備に取り掛かってもらおう。治安はいっこうに改善されず、生活インフラが断続的に途切れる日常生活が定着して、彼らの生活もジリジリと苦しくなっているようだ。話やメールからは、すさんだ閉塞感を感じる。
通訳ディーナが国を出た。「殺す」と脅迫を受け、恐怖から毎日家に閉じこもって泣いていたのだという。彼女は若い頃、突然銃で撃たれてケガをした経験を持つ。そのトラウマで、彼女は銃声や爆発音を聞くと、激しく嘔吐してしまい、倒れてしまう。彼女の住むアルシャーブ地区は、米軍とサドル派民兵が毎日のように衝突しているサドルシティに隣接していて、夏ごろからアルシャーブ地区にも拡大してきていた。ディーナはその頃から国を出たい、と言っていた。もう限界だったのだろう。見かねたファディは、難民受け入れに寛容なスウェーデンへ送ろうといろいろツテを手繰ったらしい。ディーナのパスポートは偽造だが、今のイラクでは一般市民が正規ルートでパスポート手に入れるなど、考えもつかないだろう。モノ自体は本物も偽造もさして変わりはない。なにせ、正規の紙を使っているのだから。偽造パスポートを使って、パリまで行き、フランス入管に拘束されて空港の一時滞在施設に入った・・・。ここでファディから電話があった。何度も連絡を試みるが、NG。その後、彼女は入国が認められ、1週間ほどの滞在が認められたと一時滞在所へ電話してわかった。ファディは、「ケンジ、彼女を何とか助けてあげてほしい!」ドサクサに紛れて(?)“I love Deena.”と冗談とも真面目とも取れる調子で、電話をかけてきた。新しいホテルの電話番号を聞いたが、これも全然繋がらない。何とか連絡を取りたいが・・・。