The Last Day

今日も寝坊。二度寝したのがまずかった。

08:45 ワリッド宅到着。
出勤前の様子をおさめ、そのまま彼らについて職場に向かう。赤い車体の大きなバスに一緒に乗った。100ディナール。両替店で”Only for poor people”と言われたことを思い出す。イラクでバスに乗ったのは初めての体験だ。

ワリッドのインタビュー。
もうすぐ15歳の彼は”男の職場”で鍛えられたのか、以前よりずっと大人になっていた。身振り手振りを交えてはっきりと答える。線の細い感じがした一番初めのインタビューを思い出す。もっと大きい声で答えてくれるかな、と注文した。ワリッドは仕事も早いし、理解力も高い。この子がきちんと勉強したら、どんなに才能を伸ばせることだろうと何度も何度も思う。

でも、彼は学校に戻るタイミングを逸してしまったかもしれない。そして、彼にとって父親とこうして一緒に仕事をしているのは精神的にはいいようだ。幸い、周囲の大人たちは実直で働き者のようだ。ワリッドは彼らから大人のルールや生業を教わり、鍛えられて成長していくのかもしれない。15歳になろうというワリッドが10歳や12歳の子どもたちといっしょのクラスで、恥ずかしさや劣等感を感じることなく勉強できる環境はイラクの学校にはまだない。こうした問題はアルハリル小学校にもあるとディーナは言う。教科書やプログラムの見直し、先生の再教育など、どれもBTSCで行なっていることだ。

イラクでなぜできないのか→アメリカの占領下で国連がいないから、という理由を挙げたてまつる時期はもうとっくに昔に過ぎてしまった。

しみわたる無力感。

ワリッドのお家に戻って、雑観と母親インタビュー撮り。
夜学があることを知る。授業料はただ、もしくは気持ち程度。「彼が本当に勉強したいと思えば、仕事が終わった後にいけるのでは?」と聞く。バカな質問であることはわかっていたが、ワリッドの才能と可能性をあきらめきれなかったのかもしれない。何もできないくせに勝手なものだ。朝から晩までホコリと雑音の中での単純肉体労働が続く。14歳の少年の体と頭がどれだけ疲れることか。もうそれ以上、母親にワリッドの学校に関してや教育に関して聞くことはなかった。

今日はロケ最終日となった。
ジョマナ、ハナン、ワリッドたちにカメラを向ける機会はしばらくないかもしれない。ジョマナとハナンが自分の思いを自分の言葉で話せるようになった時、戦争や占領のことについて聞いてみたい。ワリッドはどんな男になって行くのか、それだけが小さな楽しみだ。

彼らの成長を見ながら、イラクの一般市民の姿や思いを記録する仕事には、今回ひとつのピリオドが打たれた気がする。イラクに取材に来ることはあると思う。でも次に、こうして市民の側に立って長期間記録できる機会は、国連が戻り、ユニセフなどがBTSCのような目に見えるプロジェクトを始めたときかもしれない。つまり、当面はないということだ。正直さびしい。すごく。

さっき、アブドゥラがアンマンから着いた。今日着かないのではと心配していたファディはホッとした表情を見せる。気持ちの半分は、今日着かないなら着かなくても良かったけれど・・・お迎えが来たということだ。

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