大きな瞳

インターネットカフェにたどり着いたときには、もうへとへと。
さんざんロケしたあとに、バグダッドまで4時間強のドライブ。高速道路は、米軍によって途中2箇所ほど通行止めにされ、その都度迂回を余儀なくされる。これがまた強盗が出てきそうな田舎道だから、余計緊張して疲れる。ファディは銃を構えるわ、それを見てディーナは隣りでまた吐きそうな表情になるわ、バグダッドに着いて車内の空気が和んだ時はホッとした。

それにしても、笑いの絶えないいいチームだった。行きこそドタバタだったが、それぞれ周囲に気を使いながら自分の役割を楽しんでいたように思う。最初はドライバー、転じてADになってしまったディーナの兄マハシン。建築工学を学んだ彼に、水道施設や建物の知識を教えてもらいながら取材を進めることができた。押しが弱そうな雰囲気の持ち主だけど、とてもまじめで勉強熱心な人間。カブールのハナカーに似ている。

こんなふうに異国の地で、これまで出会った人たちのことを思いがけず思い出すことができるのは本当に幸せなことだ。

普通、取材チームは男所帯。ディーナは100人以上いる取材陣の中で唯一のイラク女性だった。しかも、化粧をしたちょっとモダンな女性となれば、周囲の興味もおのずと集まる。英語が通じるから、外通の連中は気さくに話かけている。他チームのイラク男性スタッフたちのうらやましそうな視線が面白かった。

サマワ郊外の村の小さな学校をロケ。
今、イラクの学校はちょうど中間テストの時期。3年生の算数のクラスにおじゃました。先生に名前を呼ばれた生徒は黒板の前に出て、口頭で出される計算問題を黒板に解答する。解答が終わると席には戻らず、そのまま教室を出て行って帰ってしまう。合理的といえば合理的だ。

子どもたちの表情は素朴で実にかわいらしい。ズームしたファインダーの画をパンしていくと、見たことのある口元にほくろ・・・昨日畑で出会った少女だった。一見気が付かなかったのは、今日は頭にスカーフをかぶっていたからだ。

あまりに美しい瞳、すいこまれる。大きな黒いダイヤモンド・・・いや、そんな陳腐な例えで表現できない。自分は、新たな生きる楽しみを見つけた子どもたちの瞳が大きく呼吸をしてキラキラ輝くことを知っている。しかし、この少女の瞳は新たに生まれた希望によって輝いているのではなく、希望とか未来という存在そのものの美しさような気がした。今はこれ以上うまい表現が見つからない。とにかく、びっくりした。

州知事のインタで時間をつぶす。待つこと1時間半、インタビュー10分。彼は具合が悪かったということもあるかもしれないが、カルバラで出会った冷たい目をしたシーア派の人たちと同じ目をしている。「イスラムを汚す者がいれば、指導者の名において我々は行動する」というオーラを発している。自分の思想や考えが最上なのだと考える怖さを感じる。サマワは明るく穏健で平和な町だが、宗教的にはけして楽観できる場所ではない。社会の基本単位である部族を見ても、ティクリートなどスンニ派地域に比べ、宗教的縛り/影響が強いように思う。

町雑観を撮影して、サマワをあとにした。
また戻ってくることがあるだろうか。

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