Day-4
寝ている最中に風が強いな、と思った。朝になっても風はつよい。明け方、少し雨がふったようだ。8:00すぎに本宅へ行くと、ジョマナは母アシュワックと学校へ行った後だった。ラミを送りがてら学校へ行く。朝の町内を知り合いの息子と手をつないで学校へ送るのは、すっかり保護者になったようでなんだか変な気分だ。目立つのも良くないかなとも思ったが、すれ違う人たちにきちんと目を見てあいさつをすれば大丈夫かな、と思って良しとした。学校から戻ると車がない。ファディが起きて後を追ったらしい。ファディは起きぬけのはれた目をしながら、”Here is no security.”と諌めた。わかっているって、と言ってはいけないと思ったから、”OK, sorry.”とだけ笑って答えた。
爆破された警察署を撮りに行った。隣接する店舗の建物は半壊している。警察署そのものの壊れようはひどいものだが、それよりも被害が大きいように見えた。火災によるものだ。あたり一面に焼け焦げた塗料の缶が転がっていて、ペンキ店だったことがわかった。現場を見てみないと分からないことがあるものだとあらためて思う。そのペンキ店を営む一家は建物のすぐ裏に住んでいて、その一角の家々も半壊していた。店は父と息子たちできりもりしていたようだが、父と息子のうち1人が亡くなった。本当にひどい話だ。残された息子たちの笑顔はしっかりとして頼もしい。どうか頑張って欲しい。
10:30 学校へ。歴史の授業を見学&ロケ。6年生の男子クラス。授業中、先生に質疑応答の機会をつくってもらった。彼らからの質問は、①占領をどう思うか ②イラクが好きか ③戦争をどう思うか ④あなたもラマダンに参加できるのか ⑤日本の占領とイラクの占領は同じか-。席から立ち上がって手をあげる少年たちの元気な姿は最高だ。理解しているかいないかはあまり問題ではなく、彼らの質問に真剣に答える態度が大切だと思う。こうゆう楽しい時間ばかりならいいなあ。
隣の6年生のクラスには、トルコ大使館の隣に住んでいる少年がいた。爆弾テロで両足に大火傷を負い、皮膚の移植手術をしたそうだ。今は痛みも無いと言い、とても元気だけれど包帯が痛々しかった。父親は一命をとりとめたものの失明したそうだ。
12: 30 先生たちとインタビュー2回目。今回はアメリカの占領についてどんなストレスや疲れを感じているのか、どんな思いを抱いているのかを聞く。一番印象に残ったのはジョマナの先生の「50/50」と言う表現。自分の日常生活で疲れやストレスを感じることがあるか、という質問に対する答え。フセイン時代の約30倍の給料を月々もらえるようになり、学校もきれいにしてもらって、教師としての誇りも取りもどした。でも、治安が悪すぎて安心して暮らせない。そこにストレスを感じているようだ。「一年後、あるいは将来的にイラク人はアメリカと仲良くなれる可能性があると思いますか?手をあげてください。」と聞くと、「可能性はある」と手をあげたのは5人中1人。通訳をしてくれたディーナだけだった。わかる気がする……。
夜、もとローカルセキュリティのメンバーだった青年から話を聞く。共産主義世界にはあると思うが、警察国家、密告社会だったイラクに独特のシステムだと思う。外国人、イラク人に限らず、特に他の地域から来た人物の監視をしていたようで、住民の日常生活上の治安を守る警察とは似て非なるものだ。以前はイラクの人民と国のために働くというはっきりとした目的を持っていたが、今はセキュリティやインフォメーションで働いていた過去のある者はどこにも雇ってもらえない。「自分たちが何を悪いことをしたと言うのか」という鬱屈した気持ちを伝えたかったようだ。彼の希望で顔は見えないように収録。この手の仕事をしていた人たちは、みんなもとの仕事は隠していて捜しようがない。米軍、イラク人の両方から襲われるのを怖がっている。
インタビューの始め、どんな仕事をしていたのかと聞くと「イラクの国と人民を守る仕事」という答えが繰り返され、いっこうに具体的な答えが返ってこない。少ない明かりのなかで2時間近く、こちらも経験したことのない長いインタビューになった。へとへと。でも、せっかく勇気を出してしゃべりたいと言ってきたのだから、あますところなくかつ詳細に話を聞いた方が面白いはず。純粋な心を持ったまじめな青年だ。なんだか心に残るインタビューだった。
学校で、ディーナに「変な質問だけど、ズボンははけますか?」と尋ねると「学校ではロングスカートが決まりなんです。普段はズボンもはいています」と答えた。夜のインタビューには颯爽とズボンをはいてきた。通訳のリズムも良くなってきている。考え方はモダンで、ハイダと同じように民主主義指向がある。ときどき反イスラエル・反米感情が突っ走って空回りするファディに対して、彼女はきちんと自分の姿勢を崩さす反論できる。第三者にとってはバランスが取れて良いかもしれない。