大きな砲撃音が絶えない首都ダマスカス。すでに観光シーズンは始まっているにも関わらず、観光客はまばらで、閉まったままの店も多い。歩いているのはもっぱらダマスカスに住む一般の市民だ。
仕事や学校を終え、カフェで水タバコを吸う男性たちは、「商売は30%ほど落ち込みました。仕方ありません」「ダマスカスまで本格的に戦闘が及ぶとは考えていません」と答えた。街には、コンクリート製のバリケードが何重にもおかれ、そこかしこに軍人の詰め所や検問がある。まるで、巨大な軍事基地の中に市民たちが住んでいるかのようだ。「以前の安全で安定した生活が欲しいです」というサンドイッチ屋の店主の言葉はほとんどの市民の思いを代弁している。
ダマスカスには、イスラム教シーア派の人たちが聖地として訪れる場所がある。門の柱には、反政府軍との戦いで亡くなり「殉教者」となった若者たちの写真が貼られている。隣国レバノンとの国境地帯に住むシーア派部族の若者たちだ。「若者たちは、単に反政府軍と戦うために来ているわけではありません。我々シーア派にとって聖なる場所を守るために戦っています。いろいろな国から来る若者たちのために食料、お金などを常に用意しています。」
ダマスカスの台所と言われる市場を訪ねた。経済制裁の中にあっても物で、生肉や生鮮野菜、果物などが所狭しと並ぶ。主婦に尋ねると「物価は二倍、三倍、物によっては五倍になっています。特に、肉類は高いので、一か月の最後に家計を見ながら買うようにしています。」一方、店主は、「輸送コストが大きく上がって、仕入れ値が高くなりっぱなしで、売り上げもさっぱりだよ」と嘆く。
取材中、爆音とともに、空高く煙が上がった。現場に駆けつけてみると、戦闘が起こっているダマスカス近郊の街の方角からだった。レポートしようとすると、タクシーの運転手が車から猛烈な勢いで下りてきたと思ったら、カメラのレンズをふさいできた。あっというまに3人の男に囲まれた。私服の秘密警察官たちだ。執拗にテープをよこせと迫ってくる。付添っていた情報省職員が取材許可証を見せて説明しても引き下がらない。口論の末、なんとかテープ没収はまぬかれたが、旧来からの相互監視システムが今は路上で公然と行われているのを垣間見た出来事だった。おびただしい数の秘密警察、国軍兵士、地域の自警団、検問…普通の生活があると思いきや、首都ダマスカスはまぎれもなく戦時下にあった。