スナイパー・ストリート~要塞都市ダマスカスの綻び~

「まずはっきりしておく点があります。『自由シリア軍』というものはシリアには存在しません。この国にあるのは、シリア国軍だけです。」

シリア国営テレビの記者であり、著明なキャスターでもあるジャファ・ナスララ氏(37)は答えた。ジャファ氏は、アル・カーイダと関係があるとされる反政府過激派グループの捕虜を数多くインタビューしてきた。その映像には、リビア、チュニジア、サウジアラビアのパスポートを持った捕虜たちが質問に淡々と答える姿があった。「彼らは、テロを聖戦と呼ぶスンニ派の指導者たちに騙され、マインド・コントロールされて反政府を名乗ってシリアに来たんです。彼らのような若者には気の毒な感じを持つこともあります。」

一方、取材する側としてアレッポで亡くなった山本美香さんのことをどう思うか、尋ねてみた。「同じジャーナリストとして悲しく思います。でも、戦闘地帯ではあり得ることで、彼女がシリア国軍の方から取材していたらあんな事故は起こらなかったでしょう。」

バリケードが幾重にも重なり、おびただしい数の秘密警察、検問、軍人の数、途切れることのない砲撃音。要塞都市ダマスカスは、メディアから街中の路上まで徹底して「シリアはひとつ」「我が国を混乱に陥れようとする湾岸アラブ諸国の干渉は受けない」と鼓舞する。

そんな要塞都市ダマスカスの中で、人影がまばらな地区がある。反政府軍が活発に活動する南東部ダラアへ続く道路の出入口だ。この地区の目抜き通りは「スナイパー・ストリート」と呼ばれ、毎日住民が狙撃され亡くなっている。通りを深く入って行くと住民たちが、炎天下の中、シリア軍の検問所前で長い列を作り家に帰れるのを待っていた。疲れきって壁の日陰に座り込む人たちも多い。この地区に住むのはパレスチナ難民の人たちだ。ヨルダンとの国境に近いパレスチナ難民居住区は、シリア国軍がスンニ派武装勢力の侵入を許しているダマスカス唯一の“ほころび”だ。

シリアがこの地区に反政府武装勢力が入り込むのを許した背景には、パレスチナ難民が、反イスラエルの象徴であり、これまで彼らに独自の治安組織や自治を認めてきたために対応が遅れた。今はシリア軍が完全に管理している。

スナイパー・ストリートに面したマンションに住む中学生は、自転車の荷袋にたった一枚だけパンを入れていた。「学校も閉まったままだし、危ないからほとんど外で遊べない。家に帰るのも一苦労なんだ。早く学校に行けるようになって友達に会いたい」と、屈託なく語る。人影のない真っすぐな「スナイパー・ストリート」にまた銃声が響いた。

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