IRINN=イラン・ニュース・ネットワーク という衛星チャンネルを観ていた。定時ニュースもあるし、教育に関する話題を集めたニュース枠、自然科学番組もあった。夕方の定時ニュースは画面右に男性、左に女性のキャスターが座って淡々と今日のニュースを消化していく(男女キャスターの位置は万国共通・・・なぜだろう?)。画面下部には英語のニュース・バーも右から左へ流れている。
トップは宗教指導者がどこかなにやらの式典に参加したというもの。続いて、アヤトラ・ハメネイ氏の静止画にコメント。次に、イラク外交使節団との会談・・・などと続いていく。政治ニュースもあるが、あくまでも自国の政府広報に徹している。
そして時々、反米・反イスラエルをアピールする画が差し挟まれる(例えば、アメリカやイスラエルの国旗に赤いバッテンが引かれるとか、イラク戦争の米軍が一般家
庭を捜索する様子や大怪我をした子どもの映像)。番組の合間合間にイスラムの歌やコーランの一節が、万華鏡のような画面とともに流れる。ちなみに国営放送は、対談、ニュース、スポーツ、映画、アニメ。特に、新聞のラテ欄(あるのか?)を調べたわけではないが、映画とアニメが多い気がする。
街中のファーストフード・レストランやショップで、市民がテレビを漫然と見ている風景はほとんど目立たない。その辺は、バグダッドとは大きく違う。ラジオはついていても、さほど気にして聞いている風でもない。それよりも忙しくしているTehranisの方が印象に残る。
一方、新聞スタンドではバグダッドと同じ風景が見られる。午前中、(何誌あるのかわからないが)道路にたくさん並べられた新聞を、男たちが下を向いて読んでいる。買う人は少なく、しばらく読んで足元から視線を上げると、タッタカ歩き去る。
30歳前半の一人のイラン人女性と話をする機会を持つことができた。サムスンの現地エージェントで会計・送金の仕事をしているという彼女に、疑問に思っていたことを聞いてみた。「テヘランの人たちは政治に興味がないのかな?」と。すると、意外な(私にとっては)答えが返ってきた。
“Yes, they are interested in politics. And they know how politics is.”
-「政治に興味はあるし、今どうなっているかも知っています」
あー、そうなんだ・・・。でも、関心がないように見えるのはなぜ?
“They are afraid that police catch them.”
-「逮捕されるのを怖がっているのよ」
みんな満足はしていない、現政府をおおっぴらに批判すると逮捕される、と彼女は言った。
でも、景気はいいように見えるけど・・・?
“For very few people, yes.”
-「一部の限られた人たちにとってはね」
教師を定年退職した母親と同居して二人暮らしの彼女によると、自分たちの暮らしは1月1,000ドルでやっていけるレベルだと言う。でも・・・、
・自分の給料は一月300ドル。安い。持ち家じゃなかったらすごく厳しい。
・民間よりも公共の組織の方がもっと厳しい。公立教師をやっている弟は、学校が終わると タクシー運転手をして家計を支えている。
・私たちの生活は以前と変わっていない。
・多くの人たちは現政府の経済政策には不満を持っている。
周りには一応イラン人男性がいるのに、外国人男性とそんな話をしていて大丈夫なのか?とも思ったが、特別な視線も感じなかった。
黒髪、黒い瞳のジュリア・ロバーツ似の彼女は話しっぷりも映画の中のジュリアに似ていた。お互い英語が完璧というわけではないけれど、私は、英語でこうした会話のできる彼女がどんな家庭環境に育ったのだろうと、興味をもった。
母は、必ずヘジャブ(頭にまいたスカーフ)だけは付けていなさいと言う。でも、自分の知らない世界をどんどん見に行きなさいって、一人でも海外旅行に行かせてくれる母だと言う。進歩的(これが適切な表現かどうかも疑問だが・・・)な方だ。
ところで、イランの外務省職員は緩慢かつ無知識、やる気のないくせに態度は小役人そのものだ。わかっていたことだったし、ビューロクラティックというか、この人たちに何を話しても何もしてくれないなという確信すらあった。それでも、しかし外務省なんだから、英語くらいは話すだろと思っていたけれど、期待はみごとに裏切られた。イランの政府機関の人たちを相手にするのは我慢が必要なことをあらためて思い知らされた。そうか、きっと給料も安いのか。
ドバイ行きのエミレーツは満席。ふと、急にハデな髪型の女性がたくさんいるのに気がついた。スカーフをとったイラン人女性たちである。その中で、黒髪のジュリアはスカーフを取らずにいた。
今度の休暇には、500ドルのタイ・ツアーに行くことを計画中だと言う彼女。今回、これからお世話になるだろう知人が何人かできたが、最後に彼女と知り合えたのはとても良かった。
金融を含む経済制裁が本当に行われた時、一般市民の生活にすぐに影響が出るだろうことがよくわかった。
イランのタフな外交が孤立主義へと向かわせた時・・・どうなるのか?
イラン国内では平穏さを装うだろう。でも、宗教、思想、人、経済でつながっている隣国イラクやアフガニスタンの方には今以上に不穏な動きが増すのではないか。そうやって揺さぶりをかけられると思う。
イラクとアフガニスタンの状況は今でも好転する材料はまったくない。
次の焦点は、イランが経済制裁を課せられるかどうか・・・。
6月初日