密着24時を一人でやるのは無理か

まったくバグダッドの交通渋滞には辟易する。車の数が多いから、無理なUターンをしようとする1台のために何百メートルも何時間もの渋滞がすぐ起こる。さらに、譲り合うとか回り道することを知らないというか、たぶん嫌いなんだ。革命や戦争や経済制裁の歴史の下で、この世で信用できるものなどもうなくなってしまったのかもしれない。今、目の前にあってできること/手に入るものだけが信じられる。「急がば回れ」という言葉はこの国にもあったかもしれないが、もう消えうせてしまったのかもしれない。

秘書官との約束は8時半だったが、45分遅れて地域本部Al-Rusafa(ルサファ) Police Directorienに着いた。出勤してくる警察官や職員、警察学校の生徒たちの表情は明るい。すでにレセプションは混み合っていた。待たされるかな、と思ったがすぐに秘書官と会うことができた。きちっとした印象。地域本部長と面会、取材趣旨を伝えて取材許可をもらいたいと言うと「自分は許可を出すことができる立場ではない。担当部署があるからそっちへ行くように」と言われる。あー、これはたらいまわしにされるか、と半分凍った。でも、繋がりは彼しかないし、秘書官の「お茶を飲んで目的を話して」という言葉を思い出して、気を取り直す。後々、この人にも話を聞くことになるかもしれないし、礼は失してはならない。どこの誰に言えば良いのか、助けて欲しいと頼む。本部長は秘書官に案内するように指示を出した。ふと思ったが、実際にアレンジしてくれるのは秘書官であり本部長ではない。しかし、秘書官が動くには当然上司である本部長の許可が必要だ。秘書官が、本部長に会って話せと言ったのは「私の上司の許可をもらえ」という意味だったんだ。当然のことなのに、気がつかなかった。イラク社会にはきちんとした官僚機構があるといわれてきたので自分自身も頭ではわかっていたが、官僚機構の最たる警察に触れてみて実感させてもらった。

秘書官とその部下に連れられ、別の地域本部Al-Kargh(カラハ) Police Commandを訪ねる。広報と言えばいいのか、取材許可をくれる部屋で担当者に取材の目的と内容を説明する。「取材許可は1日のみ、2日以上を希望する場合は本部長の承認が必要」と言われる。1日でできるはずがない。何とかならないかと話していたら、この部屋の責任者が戻ってきた。「さっきこの人に説明したのになあ」と思いながら、彼にも最初から取材目的と内容、プラス、それがいかに有意義なことか説明する。とにかく、警察官たちと同じ時間と行動を体験しなければならない。泊り込みはもちろんのこと、食事も。たとえ短い間でも、仕事やそれに伴う危険を共有しなければ「密着」とは言えない。できる限り、すべてに同行する覚悟が必要だし、そういう態度を示さなければ相手も受け入れてはくれない。また、今回は彼らにとっても自分たちの働きと心意気をアピールするまたとない機会だ。今、イラクにくるジャーナリストで泊り込んで密着したいなんて物好きはいるはずないし、やりたいと思っても経験やノウハウを持っている者は少ないと思う。治安問題はイラクの今後を占う最大のイシュー。あらゆる意味で、今やるべき取材だ。
最後まで、ニコニコしながらこちらの説明を聞いていた部長は、アダミヤ警察署とバグダッド・ジディーダ警察署で2日間ずつの取材許可書を書いてくれた。何か事故が起これば理由はどうあれ彼らの責任になるにも関わらず、宿泊もはっきり”NO”と言わない形で黙認してくれた。秘書官とその部下、部長らに素直に感謝したい。
彼の「戦争の後の状況は、日本とわたしたちとは違うと思う。なぜなら、アメリカは私たちといっしょに働いてくれていない」という言葉が印象に残った。

それにしても、警察や軍関係の取材までの道のりは険しい。『24時』の場合、取材に入るまでの段階で、地方だと県警本部のトップから始まって下へ、取材対象の署各部署の副長クラスまで挨拶しなければならない。警察側の思惑もあるし、時には一年近くかかって受け入れてもらったケースもある。実際、プロデューサーは先方によく出向く。多くの場合、その県の出身者が担当ディレクターとして送られる。それでいて中身のない下心だけの付き合いでは受け入れてもらえない。そうそう、実に手間がかかっていたんだった。イラクでも同じことだ。

許可書をもらって、そのままアダミヤ警察署に直行、署長に面会した。こういうことは時間をおいてはいけない気がしたから。署長とオフィサー連中もまた、泊り込みはもちろん、パトロール同行も危険だと言う。そして同じ説明をした。もう何人に同じ説明をしただろうか・・・。ディーナが最初にある程度説明してくれるようになったので少し楽だが。決め手の言葉は、”You are professional, I’m professional. You have family, I have family, what’s difference? It’s same. We should sure every moment even safe or danger that I want to understand each other.” 彼らはほんの一瞬静まりかえった後、”OK! Halasu!”と
言った。

ホテルに移動したあと、機材をまとめてアダミヤ警察に入ったのは18時だった。

盛りだくさんだった。
●モスクの警備&パトロール
●警察襲撃グループがいるとの通報を受け、民家を急襲。
●幹線道路で検問、不審車捜索&届出していない武器を押収。
●泥棒の通報受け、現場捜索。

ノリで書いた企画書を後悔する。だいたい「密着24時」をひとりでやろうってのが、間違いだった。小さい車にぎゅうぎゅう詰めになりながら、デカカメを担ぐ。変な体勢になるから体が悲鳴を上げる。しかも、何かが起こるの待つから、ずっと担ぎっぱなし。警官たちは突然走り出すし、検問を止まらなかった車には容赦なくパンパン威嚇発砲するし、屈強でがさつなイラク男たちは猛ハッスル。もうロデオの荒馬乗り状態で、最後は鞍から落っことされて引きずり回された感じがする。でも、常に自分のそばに着いて護衛してくれてたり、、、かなり気は使っていてくれた。”I save your security.”と言うチームリーダー。ほとんど英語は話せないが、身振り手振りでわかった。

詳しく書きたいが、盛りだくさん過ぎてこの辺にしておこう。

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