彷徨う予感

Day-9
行きは重苦しい空気だった。
朝起きた時からイヤな予感がしていた。これまでだったら行くのをやめていたかもしれない感覚だ。この恐怖感じみたイヤな予感は単なる臆病の虫が目を覚ましたからなのか、本当に何かあるかもしれないという知らせなのか、わからない。ファディも朝から険しい表情で笑顔なし。車の中でいつ「今日はやめにしよう」と言おうかと迷いながら、一方ではこの感覚の由来が何なのか、確かめなくてここから前には進んでいけないと考える自分もいた。

昨日インタビューした青年の住むアル-オウジャ村の周りには鉄条網が張り巡らされていて、完全に隔離されているのに気がついた。

TIKRIT 目抜き通り&マーケットでロケする。よそ者を無差別に敵視する事件が起こっている最中、街中の人たちの目にふれる場所での撮影は気分が良くない。イヤな予感も尾を引いていた。でも、街の人たちの生活っぷりや息吹はどうしても必要なシークエンス。とにかく礼をもってあいさつしながら撮影させてもらうしかない。

青果店、ベーカリー、床屋さん、クッキー店、CDショップなどで話を聞いたりしたが、みな親切だ。コップに入れて「これだ」と見せられた水は黄土色ににごっていた。TIKRITの人たちは、戦争後からひどいにごり水を口にしている。ふざけてだが「飲んでみろ」と言われて、かなり躊躇したけれど断って反感をかうと困るので口にしてみた。味は普通だ。それよりもこの水を使ってパンやクッキーを作っているのだから、そっちの方が気になった。もっと街中を歩きたかったが、30分ほどで切り上げた。

ユーフラテス川の東岸アル-アラム村の目抜き通り&マーケットをロケ。中心街に比べて、こちらは村の小さな商店街だ。こちらはジュブウリー族しかいないので、さほどの緊張もなかった。のどかな農村風景だ。

この村には連合軍から任命されたサラハディーン州の知事でTIKRITの市長でもある人物の家がある。取材中、何度もその息子に出会った。自称16歳だが、どう見ても13-14歳だ。目新しい四駆を乗り回す姿は放蕩息子そのもの。聞けば車を4台も持っているそうだ。親の教育方針を疑うと同時に、権力志向というか成金志向というかフセインと変わらないものを感じる。なんでこうなっちゃうのかなあ。

住宅街にイラク軍基地跡がある。5月米軍によって爆破処理されたが、近隣の家々では家中の窓ガラスが割れたり、破片が飛んできて家が傷ついたりしていた。その様子を取材し終えて、さあ帰ろうとしたところ、ドーンと大きな爆発音がしてもくもく煙が立っていった。回収した武器や弾薬を爆破処理しているようだ。こうした爆発はほとんど毎日あるという。突然の巨大な爆発音にディーナはひどく怯えたようだった。

今日一日結局何もなく、予定通りに仕事が済んで帰路についた。イヤな予感が当たらなくてホッとした。帰りは行きの重苦しい雰囲気がウソのようにみんな明るかった。

深夜、大型の輸送機だろうか、ゴワーンというプロペラの轟音が長い間響いていた。気味のいいものではないな。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>