首都ジュバにあるエル・サバァ・チルドレンズ・ホスピタルは、南スーダンで唯一の子ども病院です。平屋建ての建物が雑然と並び、周囲の金網やブロック塀は崩れ落ちて、気にして見ていないとただの工事現場かと思って通り過ぎてしまいそう雰囲気です。
救急の患者たちが屋根のない中庭に溢れていました。木陰に寝そべったり、座り込んだりして順番を待っています。マラリア(と思われる)高熱、感染症、下痢、栄養失調、子どもたちの病状は様々です。医者がきちんと診察をおこなっているのはここしかなく、具合の悪い子どもを連れて二時間かけて歩いて来たという母親もいました。院長先生によると患者数は一日およそ150人、マラリア患者が増える雨季になると200人を超えると言います。
入院する施設は十分とは言えませんが、40床ある新しい建物がひとつ稼働しており、さらにもう一棟がこれから作られようとしています。その建物が完成すれば、診察室も増え、緊急入院の場合にも対応できるだろうと思いきや、事態はそう簡単ではなさそうです。
南スーダンの独立が決まったことにより、北から南に返ってくる人たち(returnee=帰還民)がいて、南スーダン全域で人口が毎日急増しています。患者数がこれまでに比べ、爆発的に増えているのです。また、感染症の子どもたちが多いにもかかわらず、一般の病気の子どもたちと分けて入院・治療できる施設はありません。4月以降、雨季になれば、この新しい建物もスシ詰め状態になることは容易にイメージできます。
そして、なんと言っても薬の欠如です。エル・サバァ・チルドレンズ・ホスピタルは唯一の子ども病院なので、新生児から3歳以下の子どもたちの割合が多いのですが、薬としてよく使われるシロップ状のものは、薬棚にあと30本ほどしか置いてありませんでした。「これですべてですか?」と尋ねると、「はい、シロップはこれで終わりです」と薬局の看護師さんが答えました。あまりに少なすぎます。「今日でなくなりますよね?おそらく。その後、どうするのですか?」と聞くと、「処方箋だけ出して、患者さんに自費で外の薬局で買ってもらうしかありません」と視線を落として軽く頭を左右に振りました。物価の高いジュバで、一般の薬局で薬を買える人たちがどのくらいいるのかと思うと、先の見えない絶望感に襲われました。
使わなくなった病棟の廊下に未熟児などをケアするインキュベーターが3台、内側まで砂と埃にまみれて捨て置かれていました。おそらく、どこからか医療機器の支援をうけたのでしょう。私は、パレスチナのガザ地区で20年近く前に日本から寄贈された子ども用の医療機器が現役で働いているのを見て感動したことがあります。メンテナンスして使い続けている現地の人たちに敬意をおぼえました。しかし、ここ南スーダンでは、病棟が整っていない上に、電気がありません。ちょっと通電しては停電するという状態が1日中何度何度も続きます。常に電気を必要とするような医療機器はあっという間に壊れて、砂埃に埋もれてしまうのです。
絶望的な薬不足と捨て置かれた近代医療機器のギャップが、役に立たない支援の現実をあからさまに示していました。