裏通りの灯りが暗かったからか。いや、けして灯りのせいではない。ディーナはやつれていた。
アムステルダムを出て、パリ北駅に着いたのは5時半。霧雨。駅前のホテルにチェックインして荷物を置き、地下鉄に乗った。Ripublica広場近くの修道院のシェルターに辿り着いたのは6時半。ベルを鳴らすと、古びた木製のドアが開いて、メガネをかけた小柄なシスターが応対に出てきた。とても怪訝そうな表情と視線、ドアもわずか20センチほどしか開いてくれない。雰囲気から、ここは普段来訪者を受け付けていない施設なのだとわかった。ドアの隙間から垣間見えた内部は大学病院のような趣だったが、食堂かロビーのような空間はこぎれいで少なくとも冷たい雰囲気ではなかったのでホッとした。「ディーナというイラク人女性に会いたいのですが・・・」と伝えるが、小柄で気難しそうなシスターは英語がわからないようだ。そんな人はいません、とドアを閉めてしまいそうな勢いだったのでちょっと焦った。ドアの前で待つこと5分。雨と風が冷たくて、すごく長く感じられた。ドアの内側で女性のやりとりが聞こえる。ドアが開くとそこにディーナが立っていた。1,2歩、一瞬ホッとしたような笑顔を見せて抱きついてきた。そして泣き出した。OK、もう大丈夫。どう力になってあげられるかはわからないけれど、少なくとも相談できる知り合いが近くにいるというだけでも安心できると思う。彼女はえんえん泣いているけれど、本当にホッとした。この施設はやはり来訪者を禁止しているようなので、ほんの5分ほどの面会で済ませ、明日午前中に外で会うことにした。地下鉄に乗る気がしなかったので、しばらく歩いた。途中、教会の前で炊き出しが行なわれていた。コンソメの香りが食欲をそそったが、アルジェやモロッコ系と思われる若者たちの数の多さに驚いた。彼らは当然移民だと思うけれど、より良い生活を夢見て巴里まで来たものの、やはり仕事にはありつけないのか。北駅までは賑やかな大通りが続いていたのでそのまま歩いてホテルに帰る。途中のスーパーで食パンとレバーパテと牛乳を買って部屋で夕食。パリでは一人の外食ほど物を不味く感じることはない気がする。