NHKの長井暁さんには、いくつもの労いの言葉を用意しても、足りないくらい。本当にごくろうさまでした。「公共の電波をあずかる人間なら当然だ」「4年間も黙っていて、結局視聴者を欺いていたんじゃないか」「メディア人、ジャーナリストならこれって当り前でしょう」「手前ミソな感じ」「泣かれてもねえ、自分で選んだんでしょ」etc.などと、どうか簡単にかたずけないでほしい。自分だったら実際その一歩を踏み出せるか?組織の中で働く人なら、今後彼を見る目と扱いがどうなるか、わかるはず。家族がいればなおさらのことだ。
「私たちができることは何でしょう?」という質問に、マザー・テレサは「まず、あなたの隣の人にやさしい言葉をかけてあげることです」と答えたと、かつて読んだ。地下鉄のエレベーターでいっしょになって、娘を紹介した時の、彼のやさしい笑顔も思い出す。彼の家族もまた周囲の笑顔と励ましでささえられますように。
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冷静になって、客観的に今のこちらの状況を記録しておく。
ボクの愛すべきイラク取材チームは、今風前のともし火だ。通訳のディーナは昨年秋以来、暗殺脅迫を受け、暮に偽造パスポートでイラクを脱出。現在、パリで Asylum seeker として新しい生活を始めている。
おととい深夜、今回コーディネーターが頻繁に連絡を取っていた友人が、米軍に逮捕された。詳細はわからないが、爆発音も聞こえたということで、彼や家族の安否も確認できていない。
背景はどうあれ、これらの事実はコーディネーターを始め、他のスタッフの不安と恐怖を直前に迫った現実のものと感じさせている。ボクも彼らも家族に危険が及ぶことを、本気で恐れる事態となった。今後の予定は、全くわからない。
バグダッドにいる彼らは、誰がいつ襲ってくるかと、夜は眠れないと思う。バグダッドとの電話回線状況は悪く、特に夜間は何十回かけても繋がらない。
ボクらはほとんど家族のような関係で、特に、コーディネーターの家族は唯一無二の存在だ。彼らの身になにか起こったらどうしよう、とボク自身も夜が来るのが怖い。
本当の恐怖とはこういうものなのかもしれない。
つまり、自分の命ではなく、愛すべき家族の身の上に危険が直接降りかかろうとする。
彼らの未来が何よりも大切だ。
今、ボクがやらなくてはいけないのは、自分のこれまでをトレースして、“今この時、どんなジャーナリストなのか”を自問自答し続けること。自分に与えられた環境を前に、こう集中して考えていくことが冷静な判断と方法論を導き出してくれる。
ボクは、個々の事象だけでは何も判断できず、けして反射神経の優れたタイプではない。おそらく「文脈を見ていく」タイプ。点と点を結びつけていくことを無意識に考えている。だから、「なぜ?」という理由付けにこだわってきた。