ソマリア人海賊との再会(1)

彼は非常に疲れている様子だった。ほとんど瞬きもあまりせず、毛細血管が走るのがわかるほど大きな眼だが、わずかな精気しか見られなかった。肌の色も良くない。

私は、一番初めに食の話をしようと心に決め、忘れないように手の甲に「食」と書いていた。
ソマリアの食事は美味しい。地中海風だ。他のアフリカ諸国に比べて、味付けがしっかりしていて塩味やトマト味が洗練されている。
ガーリックを使っているような香ばしさもあったりする。ジャンキーさとワイルドさを兼ね備えた料理だ。日本の食事は、さぞかし軽くあっさりしているのではないだろうか。魚の煮つけなどが出た日には、味覚が違いすぎる。食は、体力にはもちろん、精神にも思考にも影響する。

私は、彼を質問攻めにして、ストレスを感じさせたくはなかった。私は、なぜ彼に会いに来たのか?と言う思いがよぎる。
そうだ、ただ話がしたかったのだと気がつく。勿論、海賊のこと、ソマリアのこと、故郷のこと、家族のこと、などよしなしごとを…時間の続く限り、陽の傾きに任せ、周囲が暑さを湛えたレッド・オレンジ色の空気から、藍いグラデーションをともなった漆黒に変わって行く時に任せて…。

私は、そう思った瞬間ソマリランドのベルベラにトリップした。
港には、内戦で半分沈み錆ついている輸送船があった。使い古して汚れた白いプラスチック製のテーブルとイスが雑然と置かれた屋外レストランで
Fish & Chipsを食べ、砂糖抜きの紅茶を飲んでいた。ここでは、Benson & Hedgesが軽い葉巻のように旨く感じられた。

一瞬のトリップ/旅だった。
接見室は寒い。彼は小さな震えから、ガチガチと歯のあたる音が聞こえるくらい大きく震えていた。
接見時間は15分。聞きたい事が山ほどある。余計なストレスをかけたくないと思いながらも時間は無駄にできなかった。

後藤健二

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