I know you, Kenji

26日、午前2時ホテル発。いつものはにかんだ笑顔を見せるアブドゥラ。頬を合わせた時の鬚の感触が懐かしい。表情は少し疲れているように見えた。

5:10 ヨルダン側国境到着、5:45 日の出、6:25(イラク時間で7:25) イラク側へ入境。両サイドの入管は休日前だからか、混み合っていた。自動車多数。イラク側で荷物チェックは一切なし。両手をズボンのポケットに突っ込みテレテレ歩く米兵2人。

11:20 ラマディ通過、横転して炎上したトレーラー。荷台のドアは開き放たれ、荷物は散乱していた。ファルージャ付近で同じような状態のトレーラーと乗用車が側道に放置してあった。

炎は出ていなかったが、野次馬がいたところを見ると、今朝方にアリババにあったものと推測される。ラマディ-ファルージャ間でアメリカ軍の車列に遭遇。一般車はこれまでより距離をとっている感じがした。これまでは、スピードを緩めながらも車列を追い越していくこともあったのだが、みんな近付くどころか300 メートル以上車間をとっている。

予兆もなく突然始まる米軍と武装勢力との戦闘。その巻き添えにあわないようにしている。たぶんこの道で起こる事件が以前のように散発的ではなく、毎日のように起こるようになったのだと思う。こうした地元の人たちのちょっとした変化は侮れない。何ヶ月かに一度訪れる自分たちとは違い、毎日ここで暮らす彼らにとって危険を回避することは日常的な行動だ。運を天に任せる暮らしが日常的な暮らしとはいえない。けして今日たまたまという現象ではない。

14時 バグダッド着
家族と再会、タラルは少しやせた。一月終わりに胆石(だと思う)で入院していたせいだ。ジョマナの前歯は半分以上生えてきていた。サファーナは表情がより豊かに。アシュワックのお腹は一回り大きくなって、サッカーボールなら2 つは入りそうだ。双子かも、と真剣に思ったが、一人らしい。ファディの帰りを待つ。

カメラマンベストをはおって、ファディが帰ってきた。首には身分証明書をぶら下げて、いかにも報道チームで働いている風。なかなか凛々しい。ファディは今、時事通信のサマーワ取材班のボディガードとして住込みで働いているが、とにかく無事で何より・・・。彼のポジションを思うと、この忙しい時に1日休みなどもらって取材班は大丈夫だろうか、と気になる。

昼食。最近、鳥も牛も食べる気がしない日本にいたから、鳥肉は特に美味しかった。気にすることなく食べられるというのは幸せなことだ。

今回の取材テーマを話すと”I know you, Kenji. I don’t go back to Smaawa.”と静かな表情で言い出した。もちろん、気持ちだけだ。きちんとした相手との約束を重んじる彼がそんなことを現実にやるはずはない。思ったことを言わずにはいられない人間なんだ。彼はもう、自分がどんな取材テーマを言ってもNOとは言わない(ファルージャを取材すること以外は)。ディーナもそう。”I know you, Kenji.”なのだ。

取材対象にあげたアダミヤ警察署とバグダッド・ジディーダ警察署を訪問。無論、行ってすぐにOKとはいかないだろうが、糸口はここから。警察の取材にはバグダッド市警の地域本部から許可書をもらわなくてはならないことが判明。地域本部に着いたのは夕方、日没後だった。

警察は今、米軍以上に狙われている感がある。チェックポイントが何重にも置かれ、建物に入るのもひと苦労だった。こういう時に知り合いがいると助かるな、と思っていたら、タラルの旧友がいた。ひとりはチェックポイントで、もう一人は地域本部長の秘書官として働いていた。こうした偶然には本当に驚かされる。「まず本部長に会ってお茶を飲んで目的を話しなさい。そうすれば大丈夫だよ」という秘書官。可能ともダメとも言わない独特のニュアンスに一抹の不安を抱えながら、土曜日の朝8時半にもう一度出直すことになった。

許可取り、大丈夫かなあ。

秘書官や数人の警察官と話した時、彼らは「以前は特定の人物とグループのためだけに働いていたんだ。でも、今はそうじゃない。自分たちは市民のために働いているんです」と言う。それこそ警察学校で教わったのかもしれないが、実に印象的だ。そして、彼らの本音だろう。地位の高い者は別として、当時の彼らの給料はひどいものだった。現在の消費者物価やその危険度に照らせば、今もけして良いとは言えないけれど、サダム時代に比べれば雲泥の差だし、仕事に取り組むモチベーションや「俺たちは悪と戦う」みたいな警察官独特の誇りは手に入れた(ただし、この誇りが「自分たちが正義だ」と思うこととイコールかはわからないのだが)。

いずれにしろ、イラクの治安の鍵を握っているのはこの新しい警察だ。イラク人への主権移譲の前に治安の確立は必須だし、イラク人自身が治めるということそのものの行方を占う指標にもなる。

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